踵を取り除いた靴が問い直す「身体と文化」──舘鼻則孝の個展「Heel-less Shoes」がKOSAKU KANECHIKA 京橋で開催中

アーティスト・舘鼻則孝の個展「Heel-less Shoes」が、東京・京橋のKOSAKU KANECHIKAで開かれています。会期は2026年10月30日(金)から12月12日(土)までです。2025年に創作活動15周年を迎えた舘鼻が、活動の原点である代表作《Heel-less Shoes》にあらためて向き合う内容です。会場には同作30点を中心に、新作のドローイング作品を含む約40点が並びます。

花魁の高下駄から生まれた「踵のない靴」
《Heel-less Shoes》は、舘鼻が東京藝術大学在学中に取り組んだ日本の伝統文化研究から生まれた作品です。江戸時代の花魁が履いた高下駄は、ただの履物ではなく、身分や社会的地位を目に見える形で示すものでした。一方、西洋のハイヒールも、権威や身体の美しさを象徴するものとして発展してきた歴史を持ちます。舘鼻はこの東洋と西洋の履物文化に着目し、ハイヒールから踵を取り除くという独自の造形にたどり着きました。
この作品は、伝統的な意匠を現代に持ち込んだだけのものではありません。文化が生まれた背景や価値観を研究することで、既存の身体観や履物の概念を問い直す試みです。2010年の発表以来、舘鼻は日本文化を現代の視点から捉え直す「Rethink」を創作の根幹に据え、絵画や彫刻などへと表現を広げてきました。今回の展示では、研究と制作の蓄積を背景に、さまざまな素材や技法による《Heel-less Shoes》が一堂に会しています。

下絵ではなく作品として描く、新作ドローイング
本展では、《Heel-less Shoes》を主題とした新作ドローイングも発表されています。舘鼻はこれまでも、立体作品の構想や造形を探る過程で数多くのドローイングを描いてきました。今回はそうした制作のための下絵という位置づけを離れ、《Heel-less Shoes》そのものを平面作品として表現しています。コンテによる繊細な線と濃淡で描かれた靴は、立体作品とは異なる質感や奥行きを持ち、身体と造形の関係を別の角度から浮かび上がらせます。
舘鼻は本展に寄せて、「踵を取り除くのは、形を単純化するためではありません。その背後にある構造を露わにするためです」と語っています。さらに《Heel-less Shoes》について、過去の文化を参照するためのものではなく、文化がどのように継承され、変化し続けてきたのかを捉え直すための「装置」であると位置づけています。文化は過去に属するものではなく現在の中で更新され続け、いま触れている文化もやがて未来の伝統文化の一部となり得る。その連続の中の一つの断面として、この作品は未来の文化へと接続される可能性を内包している、というのが舘鼻の考えです。

主な出品作品
《Heel-less Shoes “Atom” (Dragon Scales)》(2026)
2012年に舘鼻が実験的に制作した、太ももまでを覆う丈の長いヒールレスシューズを原型とする彫刻作品です。「Atom」という名には、靴を身体から独立した道具ではなく、人体を構成する一部として捉える思想が込められています。表面は、2025年から取り組んでいる「Dragon Scales」の技法により、龍の鱗を思わせる革のパーツを一枚ずつ制作して覆われています。サイズは各 h.84.8 x w.14.2 x d.21.0 cmです。
《Void Sculpture “Frozen Boots”》(2014)
透明なアクリルブロックの内部に、ヒールレスシューズの形状を空洞として表した彫刻作品です。素材を削り出したり積み重ねたりする通常の彫刻とは関係を反転させ、物質が存在しない空間そのものを造形の主体としています。閉じ込められた靴の輪郭は、見る角度や光の入り方によって姿を変えます。
《Baby Heel-less Shoes “Baby Pointe”》(2026)
Lady Gagaが「Marry the Night」のミュージックビデオで着用したことでも知られる《Heel-less Shoes “Lady Pointe”》を、ベビーサイズのオブジェとして再構築した作品です。鮮やかなピンク色の表面にはガラスクリスタルが隙間なく施され、龍工房との協働で制作された正絹の組紐が組み合わされています。日本の伝統的な組紐の技術と、現代的な素材による装飾が融合することで、異なる文化や時代の美意識が一つの造形の中に共存しています。

展覧会情報とアーティストについて
- 展覧会名:舘鼻則孝 「Heel-less Shoes」
- 会期:2026年10月30日(金) – 12月12日(土)
- 開廊時間:11:00 – 19:00(日・月・祝は休廊)
- 会場:KOSAKU KANECHIKA(〒104-0031 東京都中央区京橋1-7-1 TODA BUILDING 3F)
- 電話:03-3528-6720
- 入場無料
舘鼻則孝は1985年東京都生まれ。2010年に東京藝術大学美術学部工芸科染織専攻を卒業し、遊女に関する文化研究とともに、友禅染を用いた着物や下駄の制作を行ってきました。作品は国立工芸館、メトロポリタン美術館、ヴィクトリア&アルバート博物館などに収蔵されています。また、10月6日まで女子美アートミュージアムにて、創作活動15周年を記念した個展「リシンク –舘鼻則孝と手しごと– 展」を開催しました。










